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AI導入・活用公開

介護事業所のAI導入|記録と間接業務から始める棚卸し・ケアとの線引き・加算と補助の制度【厚労省の公的データ】

記録と申し送りに追われて利用者と向き合う時間がない。職員は足りないのに、AIやICTの話は大きな施設向けに聞こえる。地方の小さな介護事業所がAI導入を考えるときに、どの業務から手を付け、何をAIに任せず、どの制度に合わせればよいのかを、厚生労働省の公的データと省令の原本で整理しました。

約24分で読めます

この記事の要点

  • 介護事業所のAI導入は、ツール選びではなく「省令で決まっている記録」と「間接業務」の棚卸しから始めるのがおすすめです(私たちの考え)。訪問介護の運営基準は、サービス提供の記録・苦情・事故の記録を整備し、完結の日から2年間保存することを定めています[7]。記録は、どの事業所にも必ずある「AIで減らせる手間」の起点です。
  • 厚生労働省の調査研究事業(令和7年9〜11月調査)では、介護記録ソフトなどの「介護業務支援機器」の導入率は、居住系・入所・泊まり系で56.4%(令和4年度 10.2%)でしたが、訪問系は29.2%、通所系は36.7%にとどまりました[2]。小さな訪問・通所の事業所ほど、記録のデジタル化がこれからです。
  • 国は制度で後押ししています。令和6年度に新設された生産性向上推進体制加算は、見守り機器・インカム等・介護記録ソフト等のテクノロジーを1つ以上導入し、委員会を開き、ガイドラインにもとづく改善を続け、年1回データを提出する事業所を(Ⅱ)10単位/月、3種類すべて導入して成果が確認された事業所を(Ⅰ)100単位/月で評価します[4]。ただし令和7年8月時点の算定率は(Ⅰ)2.7%、(Ⅱ)22.1%です[2]。
  • AIに任せるのは記録の下書き・要約・申し送り文・計画書のたたき台までで、ケアの内容の判断、事故や苦情への対応、本人・家族への説明は人が行います(私たちの考え)。利用者の情報は要配慮個人情報を含むため、氏名を消しても他の情報と照合して本人が分かるなら個人情報として扱う必要があり[8]、入力前に「入れてよい情報」を決めておきます。

ガイドこのテーマの全体像は中小企業のAI導入ガイド

「記録と申し送りに時間を取られて、利用者と向き合う時間が削られている」「職員は足りないが、AIやICTの話は大きな法人の施設向けに聞こえる」。地方で訪問介護・通所介護・小規模な施設を運営している経営者や管理者から、こうした声をよく聞きます。介護の現場は、製造業や運送業と同じように「人が足りない」業種ですが、ほかの業種と違って、記録の義務が省令で決まり、利用者の情報が要配慮個人情報にあたり、そしてAIやICTの導入を国が加算と補助で後押ししている、という3つの特徴があります。

この記事では、従業員が数人から数十人の介護事業所(訪問系・通所系・小規模な居住系・入所系)の経営者・管理者向けに、介護事業所のAI導入を整理します。公的なデータで見る現状、省令の記録を起点にした棚卸し、ケアとAIの線引き、個人情報の入力ルール、加算と補助の制度、3か月で1業務から始める進め方、サービス類型別の始めやすい業務、つまずきと対策、チェック表の順に説明します。制度と数字は、厚生労働省・個人情報保護委員会・広島県の公式資料と省令の原本を2026年10月25日に確認したものだけを載せています。私たちの考えやおすすめは、そうと分かるように書いています。

なお、この記事は介護事業所の業務の側から見たAI・ICTの使い方を扱うもので、介護報酬の請求や加算の届出の実務、個別の機器・ソフトの選定、人員配置基準の解釈は扱いません。費用の相場も、公的なデータがないため書いていません。中小企業全般のAI導入の全体像は「中小企業のAI導入ガイド」、費用の考え方は「中小企業のAI導入の費用」の記事で整理しています。

介護のAI導入が、ほかの業種と違う3つの点

中小企業向けのAI活用の調査や記事の多くは、介護を対象にしていません。たとえば中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)は、日本標準産業分類の「医療、福祉」を調査対象から除いています[11]。介護事業所のAI導入を考えるときは、中小企業向けの一般論ではなく、厚生労働省が介護分野向けに出しているデータと制度を見る必要があります。私たちは、介護のAI導入には次の3つの特徴があると考えています(私たちの整理です)。

  • 人手不足が、制度上の「必要数」として示されている:厚生労働省が第9期介護保険事業計画にもとづいて集計した介護職員の必要数は、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人で、2022年度の約215万人からそれぞれ約25万人、約57万人の増加です[1]。国は対策の柱の一つに「離職防止・定着促進・生産性向上」を挙げています[1]。
  • 記録が省令で決まっている:訪問介護の運営基準は、サービス提供の記録、苦情の記録、事故の記録などを整備し、完結の日から2年間保存することを定めています[7]。記録はどの事業所にも必ずあり、しかも書く量が多い仕事です。AIで減らせる手間の起点になります。
  • 国が加算と補助で後押ししている:令和6年度の介護報酬改定で生産性向上推進体制加算が新設され[4]、介護テクノロジーの導入には国と都道府県の補助があります[5]。一方で、利用者の情報は要配慮個人情報を含むため、生成AIに何を入力するかを先に決めておく必要があります[8][9]。

公的データで見る介護事業所のテクノロジー導入の現状

厚生労働省の「介護現場における生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくりに資する調査研究事業」(令和7年9〜11月に全介護保険サービスの施設・事業所に調査、回収6,876件)の結果概要が、2026年2月18日の介護報酬改定検証・研究委員会に出されています[2]。主な数字は次のとおりです(導入率は、加算を届け出ている事業所を追加で抽出した分を除いて集計したもの)。

項目数字出典
介護記録ソフトなど「介護業務支援機器」の導入率訪問系 29.2%/通所系 36.7%/居住系・入所・泊まり系 56.4%(居住系等は令和4年度 10.2%から上昇)[2]
見守り支援機器の導入率(居住系・入所・泊まり系)47.2%(令和4年度 30.0%)[2]
インカムなど職員間の連絡用のICT機器の導入率訪問系 15.0%/通所系 9.3%/居住系・入所・泊まり系 22.3%[2]
どのテクノロジーも導入していない理由「導入費用が負担である」67.9%、「ランニングコストが負担である」48.8%[2]
未導入の事業所の、導入支援の補助金の申請経験「申請したことはない」67.3%。申請しない理由は「導入したい介護テクノロジーがないため」49.4%、「補助金に関する情報を把握していないため」22.5%[2]
生産性向上推進体制加算の算定率(令和7年8月の請求実績)(Ⅰ)2.7%、(Ⅱ)22.1%(対象サービス全体 78,116事業所)[2]
「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会」の設置率全サービス 63.1%、設置が義務付けられた居住系・入所・泊まり系 75.0%。開いていない理由は「職員の業務負担が多い」42.1%、「委員会に関する情報が足りない」36.1%[2]
加算を算定している事業所が感じている効果「職員の精神的・身体的負担が軽減した」61.2%、「夜間の利用者の状況について把握しやすくなった」47.7%、「施設・事業所内のコミュニケーションが円滑になった」43.7%[2]

この数字から私たちが読み取るのは、次の2点です(私たちの見方です)。1つ目は、記録ソフトの導入が施設では進んだ一方で、訪問系・通所系の小さな事業所では3割前後にとどまっていることです。2つ目は、導入していない事業所の多くが補助金を申請した経験がなく、「導入したい機器がない」「補助金の情報を知らない」と答えていることです。言い換えると、小さな事業所ほど「何を入れればよいか」が決まっておらず、制度の情報も届いていません。だからこそ、機器のカタログより先に、自分の事業所の業務を棚卸しする順番が要ります。

同じ調査の聞き取りには、居宅介護支援事業所がAI機能や文字起こし機能のある業務効率化ツールとタブレット端末を使い、記録作成などの時間を以前より大幅に減らし、考える時間を確保できていると答えた例や、通所介護が介護記録ソフトの送迎スケジュール作成機能を使っている例が載っています[2]。生成AIや文字起こしは、施設だけでなく居宅系の小さな事業所でも使われ始めています。

手順1:省令で決まっている記録と、間接業務を棚卸しする

厚生労働省は、介護事業所の生産性向上の改善活動を「準備 → 見える化 → Plan → Do → Check → Action」の6つの手順で示し、見える化の手順では課題把握シートと業務時間見える化ツールで業務を定量的に把握すること、計画は3か月程度を目安にすること、1年を目安にPDCAを回して続けることを勧めています[3]。生産性向上推進体制加算もこのガイドラインにもとづく改善活動を要件にしています[4]。つまり、国の制度そのものが「棚卸しから始める」順番になっています。

私たちがおすすめする棚卸しの起点は、省令で決まっている記録です。訪問介護の運営基準(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準)は、次の記録を整備し、完結の日から2年間保存することを定めています[7]。通所介護や施設にも、それぞれの基準に同じ趣旨の記録の規定があります(サービスごとの条文は、自分の事業所の基準で確かめてください)。

記録根拠(訪問介護の例)AI・ICTで減らせる手間(例)人が決めること
サービス提供の記録(提供日・内容・費用など)と、提供した具体的なサービスの内容等の記録第19条、第39条第2項第2号[7]音声や短いメモからの記録の下書き、定型文の補完、記録ソフトへの転記記録の内容が事実と合っているかの確認。利用者から申出があったときの情報の提供
訪問介護計画第39条第2項第1号[7]アセスメントの要約、計画のたたき台目標と援助の内容。利用者・家族への説明と同意
苦情の内容等の記録第36条第2項、第39条第2項第5号[7]聞き取りメモの整理、経過の時系列化苦情への対応そのもの。市町村・国保連への協力と報告
事故の状況と、事故に際して採った処置の記録第37条第2項、第39条第2項第6号[7]報告書の下書き、再発防止策の案出し事故への対応、市町村・家族・居宅介護支援事業者への連絡、損害賠償
身体的拘束等の態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の記録第39条第2項第3号[7](私たちは、AIに下書きさせることをおすすめしません)緊急やむを得ない理由の判断と記録はすべて人が行う

省令の記録のほかに、事業所の中にある間接業務も同じ表に足します。シフト作成、送迎の計画、請求とレセプトの準備、申し送り、家族への連絡、研修の資料づくり、各種の届出などです。1つの業務につき「誰が・週に何時間・どの画面や紙で」を1行ずつ書き出し、業務時間見える化ツール[3]で量を測ります。書き出し方は「業務棚卸しのやり方」の記事で詳しく説明しています。

棚卸しのときに、記録を「紙に書いて、あとでパソコンに打ち直している」仕事があれば印を付けてください。国の補助の資料は、業務効率化に資するバックオフィスソフトを補助対象にする条件として「転記等の業務が発生しないことの環境が実現できている場合に限る」と書いています[5]。転記をなくすことは、補助の要件であると同時に、AIを入れる前に片付けておくべき無駄です。

手順2:ケアとAIの線引きを決める(任せる・補助・任せない)

厚生労働省と経済産業省が定める「介護テクノロジー利用の重点分野」(令和6年6月改訂、令和7年4月から運用)は、9分野16項目で、記録ソフトなどが入る「介護業務支援」を「介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等への介護サービス提供に関わる業務に活用することを可能とする機器・システム」と定義しています[6]。令和6年の改訂では機能訓練支援、食事・栄養管理支援、認知症生活支援・認知症ケア支援の3分野が加わりました[6]。

小さな事業所が最初に使うAIは、この「介護業務支援」の中の、文章を扱う部分がほとんどです。私たちは、業務を次の3つに分けて線引きすることをおすすめしています(分け方は私たちの考えです。最終的な判断は各事業所の管理者と、必要に応じて指定権者の指導に従ってください)。

区分業務の例決めておくこと
AIに下書きを任せるサービス提供記録・ケース記録の下書き、申し送り文の要約、会議の議事録、家族向けのお知らせ文、研修資料や手順書のたたき台必ず職員が読んで直してから確定する。誰が確認したかを残す
AI・ICTで補助する計画書・アセスメントの要約、シフトや送迎の案出し、請求前の記録の抜け漏れチェック、問い合わせへの定型の返答案最終の決定は管理者・計画作成担当者が行う。案と決定を分けて保存する
AIに任せないケアの内容と優先順位の判断、事故・苦情・急変への対応、身体的拘束の判断、本人・家族への説明と同意、職員の評価人が行うと明文化する。AIの出力をそのまま利用者・家族に渡さない

生産性向上推進体制加算の要件になる「介護記録ソフト等」について、国の補助の資料は、記録業務・事業所内外の情報共有業務・請求業務を一気通貫で行うことが可能なものと説明し、居宅介護支援・居宅サービスの事業所が申請できる記録ソフトには、ケアプランデータ連携標準仕様に準じたCSVファイルの出力・取込機能を求めています[5]。生成AIの単体のサービスを使う場合も、最終的に記録ソフトにどう入れるかまで決めておくと、転記が増えません。

手順3:利用者の情報を、入力する前にルールにする

介護事業所が扱う情報は、要配慮個人情報を含みます。個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(令和8年4月一部改正)は、氏名など特定の個人を識別できる記述を削除して加工した情報でも、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人(患者・利用者等)を識別できる場合には、全体として個人情報に該当するとしています[8]。「名前を消したから大丈夫」とは限らない、ということです。同じQ&Aは、介護関係事業者について、指定基準によりサービス担当者会議等で利用者・家族の個人情報を使う場合は文書による同意が必要なことにも注意を促しています[8]。

個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用について、個人情報を含む内容を入力する場合は利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、入力した個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるため、サービスを提供する事業者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認することを求めています[9]。生産性向上推進体制加算の委員会の議論でも、このガイダンス等を遵守することが前提とされています[4]。

私たちは、次の3段階で「入力してよい情報」を決めておくことをおすすめしています(私たちの考えです)。

段階扱い例
入力しない業務用に契約していない無料の生成AIには入れない氏名・住所・生年月日・被保険者番号、病名や服薬、認知症の状況、家族の事情、写真
置き換えてから入力する利用者を記号(Aさん・利用者1)に置き換え、日付や施設名も伏せてから使う。ただし、置き換えても本人が分かる場合は個人情報として扱う[8]記録の下書き、申し送りの要約、家族向けの文面
契約したサービスの中で入力する機械学習に使われないこと、保存場所と期間、アクセス権限を確認した業務用のサービス(記録ソフトのAI機能など)だけで扱う[9]記録ソフトに保存される記録、計画書の要約

この表を、生成AIを使い始める前に職員に配り、管理者が確認したサービスだけを使う決まりにしておきます。社内ルールの作り方は「生成AIの社内ルールの作り方」の記事で、10項目のひな形を載せています。

手順4:制度に合わせる(生産性向上推進体制加算と、介護テクノロジー導入の補助)

介護事業所のAI・ICT導入には、ほかの業種にはない2つの制度があります。制度は変わるので、届出や申請の前に必ず最新の公式資料と都道府県の募集要項で確かめてください。

制度内容(公式資料で確認したもの)出典
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)10単位/月委員会の開催や必要な安全対策を講じたうえで、見守り機器等のテクノロジー(見守り機器・インカム等・介護記録ソフト等)を1つ以上導入し、生産性向上ガイドラインにもとづく業務改善を継続的に行い、1年以内ごとに1回、効果を示すデータを提供する。対象は短期入所系・居住系・多機能系・施設系サービス[4]
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)100単位/月(Ⅱ)の要件を満たし、(Ⅱ)のデータで成果が確認され、テクノロジーを3種類すべて導入し、介護助手の活用などの職員間の適切な役割分担に取り組む。加算(Ⅱ)の機器導入後、取組を3か月以上続けて導入前後を比べる[4]
委員会加算を算定する場合は、経過措置の期間でも設置が必要で、3か月に1回以上の開催。ケアを行う職員を含む幅広い職種の参画。事故防止の委員会などと一体で運営してもよく、テレビ電話での開催や外部の専門家の活用も可[4]
介護テクノロジー導入の補助(国の枠組み)都道府県が実施。重点分野に該当する機器のほか、介護ソフト・タブレット端末・インカム・クラウドサービス・業務効率化に資するバックオフィスソフト等が対象。上限の例は、介護ソフト 250万円(利用者ごとのライセンス料で変わる契約は職員数に応じて100万〜250万円)、移乗・入浴支援 1機器100万円、それ以外 1機器30万円、パッケージ型 400万〜1,000万円で都道府県が設定、一体的に行う業務改善支援 45万円。補助率は国・都道府県3/4(要件によっては1/2)、協働化の事業と併せる場合4/5。要件は業務改善計画の作成・報告、施設系は委員会の設置、居宅介護支援・居宅サービスはケアプランデータ連携システムの利用開始(資料では令和7年度中)、補助を受けた翌年度から3年間の効果報告など。導入支援と一体的に行う業務改善支援(コンサルティング会社等、または介護生産性向上総合相談センター等)は必須[5]
都道府県の募集の例(広島県)令和8年度「介護テクノロジー定着支援事業」補助金。県内の介護保険サービスの事業所(訪問介護・居宅介護支援を含む)と養護老人ホーム・軽費老人ホームが対象。申請には指定のセミナーの受講と、介護職場サポートセンターひろしま(介サポひろしま)への事前相談が必須。受付は令和8年7月13日〜8月7日で終了。令和5〜7年度に県の介護ロボット・ICT・介護テクノロジーの補助金を受けていない事業所を優先して採択。問い合わせは補助金事務局(日本福祉用具供給協会中国支部広島県ブロック事務局)[10]

補助の上限や補助率は都道府県ごとに異なり、受付期間も年度の前半に集中します。広島県のように、申請の前にセミナーの受講と事前相談が必須になっている県もあります[10]。来年度の募集に間に合わせるには、年度の初めに募集を待つのではなく、今のうちに手順1の棚卸しと業務改善計画の下書きを済ませておくことをおすすめします(私たちの考えです)。調査でも、補助金を申請しない理由の最多は「導入したい介護テクノロジーがないため」49.4%でした[2]。何を入れるかは、補助金の募集が始まってから考えるものではありません。

国の補助の資料は、在宅系の事業所の要件として「ケアプランデータ連携システムを利用し、かつデータ連携を行う相手となる事業所が決定していること」を挙げています[5]。居宅介護支援事業所や訪問・通所の事業所は、連携先のケアマネジャーの事業所と一緒に進めると、要件と業務の両方がそろいます。

手順5:3か月で1業務、1年でPDCAを回す

厚生労働省の改善活動の手順は、計画を3か月程度の目安で立て、まず実行して試行錯誤を繰り返し、小さな成功を積み重ね、1年を目安にPDCAを回すことを勧めています[3]。生産性向上推進体制加算(Ⅰ)も、機器導入後に取組を3か月以上続けてから導入前後を比べる仕組みです[4]。下の表は、この手順をAI導入向けに私たちが当てはめたものです(目安は私たちの考えです)。

時期やること(厚労省の手順)AI導入での中身(例)
1か月目準備・見える化:チームとリーダーを決め、経営者が開始を宣言し、課題把握シートと業務時間見える化ツールで業務を測る[3]記録と間接業務の棚卸し表を作る。記録の下書きに週に何時間かかっているかを測る。入力してよい情報の3段階を決める
2〜3か月目Plan・Do:優先課題を1つに絞り、役割を決め、3か月の計画で実行する[3]記録の下書きなど1業務だけで、業務用のサービスを使って試す。確認する人を決め、確認の時間も含めて測る
4か月目Check:途中経過を把握し、成果を検証する[3]導入前と比べて記録の時間がどれだけ変わったか、職員の負担感がどう変わったかを委員会で確認する。加算を目指す事業所は、ここで(Ⅱ)の届出を検討
5〜12か月目Action:うまくいった点・いかなかった点を分析し、計画を練り直して続ける[3]申し送り・計画書・家族連絡など2つ目の業務に広げる。補助金の募集に合わせて業務改善計画を仕上げる。年1回の実績データの提出に備える

サービス類型別:始めやすい業務の例

調査では、テクノロジーの導入率も、導入しやすい業務も、訪問系・通所系・居住系で大きく違いました[2]。下の表は、各類型で最初に手を付けやすい業務を、私たちの考えで並べたものです(事業所の規模や人員で変わります)。

類型現状(調査の数字)最初に手を付けやすい業務(私たちの考え)気をつけること
訪問系(訪問介護・訪問看護・居宅介護支援など)介護業務支援機器 29.2%、インカム等 15.0%[2]。聞き取りでは、居宅介護支援がAI機能・文字起こしのあるツールで記録作成の時間を大幅に減らした例[2]訪問先からの音声メモによる記録の下書き、ケアマネジャーとのやり取りの要約、ケアプランデータ連携システムの利用移動中や訪問先で利用者の情報を扱うため、端末の管理と入力ルールを先に決める
通所系(通所介護・通所リハビリなど)介護業務支援機器 36.7%、インカム等 9.3%[2]。聞き取りでは、記録ソフトの送迎スケジュール作成機能の活用例[2]送迎計画の案出し、連絡帳・家族向けのお知らせの下書き、機能訓練の記録の要約送迎と利用者の体調に関する判断は人が行う。お知らせはAIの文面をそのまま渡さない
居住系・入所・泊まり系(特定施設・グループホーム・小規模多機能・施設など)介護業務支援機器 56.4%、見守り 47.2%、インカム等 22.3%[2]。加算(Ⅱ)の算定率は介護老人保健施設 33.2%、介護福祉施設 31.9%[2]見守り機器・インカム・記録ソフトの3種類をそろえて加算(Ⅱ)→(Ⅰ)を目指す。夜間の記録と申し送りの要約委員会の設置が義務(経過措置あり)。3種類の機器のデータを記録ソフトに集める設計にする

つまずきやすい点と対策

つまずきよくある状況対策(私たちの考え)
機器を入れたが、紙の記録が残って二重になる記録ソフトを入れても、現場は紙に書いてあとで打ち直している転記をなくすことを導入の条件にする。補助の対象も転記が発生しない環境が条件[5]
委員会が形だけになる開いていない理由は「職員の業務負担が多い」42.1%、「情報が足りない」36.1%[2]事故防止などの既存の会議と一体で運営し、テレビ電話も使う[4]。議題は棚卸し表の「時間が多い業務」から選ぶ
無料の生成AIに利用者の情報を入れてしまう職員が個人のスマートフォンで記録の下書きを作っている入力してよい情報の3段階を配り、業務用のサービスだけを使う決まりにする[8][9]
補助金の募集に間に合わない申請したことがない事業所が67.3%。理由は「入れたい機器がない」49.4%、「情報を知らない」22.5%[2]年度の前半の募集に備えて、棚卸しと業務改善計画の下書きを前年度のうちに作る。都道府県の総合相談センターや事前相談の窓口を早めに使う[5][10]
加算(Ⅰ)の要件が重い聞き取りでは、見守り機器の全床導入や報告の細かさ、タイムスタディの負担が未算定の理由に挙がった[2]まず(Ⅱ)で1つ以上の機器と改善活動の型を作り、成果が確認できてから(Ⅰ)を検討する[4]
効果が測れない導入前の時間を測っていないので、減ったかどうか言えない手順1で記録の時間を測ってから入れる。加算も導入前後の比較が前提[4]

AI導入を始める前のチェック表

  • 省令で決まっている記録(サービス提供・計画・苦情・事故など)と保存期間を、自分の事業所の基準で一覧にした[7]。
  • 記録と間接業務の棚卸し表を作り、1業務ごとに週の時間を測った[3]。
  • 紙に書いてから打ち直している「転記」を洗い出した[5]。
  • AIに任せる・補助する・任せない、の線引きを文書にした。
  • 入力してよい情報の3段階を決め、職員に配った[8][9]。
  • 使う生成AIのサービスについて、機械学習に使われないこと、保存場所と期間、アクセス権限を確認した[9]。
  • 委員会(または既存の会議との一体運営)の開催頻度と構成員を決めた[4]。
  • 最初の3か月で試す業務を1つに絞り、確認する人を決めた[3]。
  • 都道府県の補助金の募集時期・必須の研修や事前相談・要件を確かめた[5][10]。
  • 加算(Ⅱ)の要件(機器1つ以上・ガイドラインにもとづく改善・年1回のデータ提出)を満たせるか確認した[4]。

介護の現場では、AIが置き換えるのは利用者と向き合う時間ではなく、その前後にある記録と調整の時間です。私たちEnbitoは、地方の中小企業の業務の棚卸しから始めるAI導入を支援しています。介護事業所についても、機器やソフトを決める前に「どの記録に、誰が、何時間かかっているか」を見える化し、ケアとAIの線引きと入力のルールを決めてから、制度に合わせて進める順番をおすすめしています。棚卸しの型は「縁SCAN」の案内ページで紹介しています。

よくある質問

Q.訪問介護や通所介護のような小さな事業所でも、生産性向上推進体制加算は取れますか?
A.厚生労働省の説明資料では、生産性向上推進体制加算の対象は短期入所系・居住系・多機能系・施設系サービスとされており、訪問系・通所系は対象に含まれていません[4]。一方、介護テクノロジー導入の国の補助は訪問介護や居宅介護支援も対象で、在宅系の要件としてケアプランデータ連携システムの利用が挙げられています[5]。広島県の令和8年度の募集も訪問介護・居宅介護支援を含む県内の介護保険サービスの事業所を対象にしていました[10]。自分の事業所がどの制度の対象かは、都道府県の募集要項で確かめてください。
Q.介護記録の下書きに生成AIを使ってもよいのですか?
A.法令や公式資料に「使ってはいけない」という規定はありませんが、利用者の情報は要配慮個人情報を含みます。個人情報保護委員会は、生成AIに個人情報を含む内容を入力する場合、利用目的の範囲内であることと、入力した個人データが機械学習などに使われないことを十分に確認するよう求めています[9]。氏名を消しても他の情報と照合して本人が分かる場合は個人情報として扱う必要があります[8]。私たちは、機械学習に使われないことを確認した業務用のサービスを使い、置き換えのルールを決め、職員が必ず確認してから記録を確定することをおすすめしています。
Q.何から始めればよいですか?機器を先に決めるべきですか?
A.厚生労働省の改善活動の手順は、準備と見える化(課題把握シート・業務時間見える化ツールで業務を定量的に把握)から始め、3か月程度の計画で1つずつ実行することを勧めています[3]。調査では、テクノロジーを導入していない事業所が補助金を申請しない理由の最多が「導入したい介護テクノロジーがないため」49.4%でした[2]。私たちは、機器を決める前に、省令で決まっている記録と間接業務を棚卸しして、時間の多い業務から1つ選ぶことをおすすめしています。
Q.AIを入れても職員の負担は減りますか?
A.厚生労働省の調査では、生産性向上推進体制加算を算定している事業所が感じている効果として「職員の精神的・身体的負担が軽減した」が61.2%で最も多く、「夜間の利用者の状況について把握しやすくなった」47.7%、「施設・事業所内のコミュニケーションが円滑になった」43.7%が続きました[2]。ただしこれは、機器を入れたうえでガイドラインにもとづく改善活動を続けている事業所の回答です。機器を入れただけでは、紙の記録が残って二重になるなど負担が増えることもあるため、導入前に記録の時間を測り、転記をなくす設計にすることが大切だと私たちは考えています。
Q.補助金はいつ、どこに申し込めばよいですか?
A.介護テクノロジー導入の補助は都道府県が実施し、上限や補助率、受付期間、必須の研修や事前相談は都道府県ごとに違います[5][10]。広島県の令和8年度の募集は7月13日〜8月7日で、申請には指定のセミナーの受講と介サポひろしまへの事前相談が必須でした[10]。国の資料では、導入支援と一体的に行う業務改善支援(コンサルティング会社等、または介護生産性向上総合相談センター等)が必須とされています[5]。来年度の募集に向けて、都道府県の介護担当課や総合相談センターの窓口に早めに相談し、棚卸しと業務改善計画の下書きを先に進めておくことをおすすめします。

参考・出典

  1. [1]厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について(令和6年7月12日)」
  2. [2]厚生労働省(介護給付費分科会 介護報酬改定検証・研究委員会 第32回 資料1-4)「介護現場における生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくりに資する調査研究事業(結果概要)(案)(令和8年2月18日。PDF)」
  3. [3]厚生労働省「介護分野における生産性向上について|改善活動の標準的なステップ」
  4. [4]厚生労働省 老健局高齢者支援課「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について(説明資料。令和8年3月更新。PDF)」
  5. [5]厚生労働省 老健局「介護テクノロジー導入・定着支援関連資料(介護テクノロジー導入支援事業・介護テクノロジー導入・協働化等支援事業の概要。PDF)」
  6. [6]厚生労働省「介護テクノロジー利用の重点分野(令和6年6月28日改訂)」
  7. [7]e-Gov 法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第19条・第36条・第37条・第39条」
  8. [8]個人情報保護委員会・厚生労働省「「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)(平成29年5月30日、令和8年4月一部改正。PDF)」
  9. [9]個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」
  10. [10]広島県 介護政策課「令和8年度「介護テクノロジー定着支援事業」補助金について(2026年7月24日更新)」
  11. [11]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)報告書(調査対象の範囲。PDF)」

制度・数値は2026.10.25時点で各公式情報を確認したものです。補助金・助成金などは公募回ごとに内容が変わるため、申請の前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

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中胡 翔太郎株式会社Enbito 代表取締役

広島県出身。大手日系事業会社で生成AIを実際の業務に組み込み、大手外資系コンサルティングファームで企業の業務改革を支援。個人事業として30社以上の企業・事業者の立ち上げと成長に伴走。現在は株式会社Enbitoの代表として、地方の中小企業のAI活用支援・業務改善に取り組んでいます。

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