広島のものづくり企業のAI活用|自動車・造船・鉄鋼・酒造で始めやすい業務と進め方
自動車、造船、鉄鋼、酒造。広島を支えるものづくりの現場で、AIをどこから使い始めると効果が出やすいのかを、公的データと県内の実証事例をもとに整理しました。
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この記事の要点
- 広島県の製造品出荷額等は10兆6,923億円(2022年、全国10位)。自動車や造船を中心とする輸送用機械のウエイトが最も高く、鉄鋼、はん用・生産用・業務用機械が続きます[1]。
- 全国の中小企業では、製造・生産部門のAI導入率は34.9%と、総務・管理部門(68.3%)より低い水準です[5]。まずは事務・品質記録・技能伝承など、現場を止めずに始められる業務からが現実的です。
- 県内の製造品出荷額等は、広島市(28.9%)と福山市(20.4%)の2市で5割弱を占めます。広島市は輸送用機械、福山市は鉄鋼、東広島市は電子部品・デバイス・電子回路と、地域ごとに主な産業が違います[1]。
- 広島県は「ひろしまAIサンドボックス」で、県内企業とAI開発者の実証を支援しています。令和8年度は、舶用機器の自律航行向けAIや施工計画書の作成効率化など17件が採択されました[3]。
データで見る広島のものづくり
日本銀行広島支店によると、広島県は戦後、輸送用機械や鉄鋼などの「重厚長大型産業」が成長し、中四国最大の工業県に発展しました。製造品出荷額等(2022年)は10兆6,923億円で、全国シェアは3.0%(全国10位)です[1]。
- 業種構成は、自動車クラスターや造船業を中心とする輸送用機械のウエイトが最も高く、次いで鉄鋼、はん用・生産用・業務用機械[1]
- 地域別には、広島市で輸送用機械、福山市で鉄鋼のウエイトが突出して高く、造船会社が多い呉市・尾道市では輸送用機械、東広島市では電子部品・デバイス・電子回路のウエイトが高い[1]
- 酒造では、東広島市の西条に7軒の蔵元が集まり、「酒都」として知られています[2]
中四国の各県と比べると、製造品出荷額等(2022年)は広島県が10兆6,923億円、岡山県が9兆6,982億円、山口県が7兆6,150億円、愛媛県が5兆4,074億円の順です[1]。輸出でも、広島県の名目輸出金額(2024年)は2兆8,550億円(全国シェア2.7%)で、業種別では自動車のウエイトが突出して高く、鉄鋼や船舶のウエイトも全国より高くなっています[1]。
市町別に見る:どこで何をつくっているか
日本銀行広島支店の資料は、製造品出荷額等(2022年)を市町別にも示しています。広島市と福山市の2市で、県内全体の5割弱を占めます[1]。
| 市町 | 製造品出荷額等(2022年) | 県内シェア | 主な産業(資料の記述) |
|---|---|---|---|
| 広島市 | 3兆906億円 | 28.9% | 輸送用機械(市内の61.5%) |
| 福山市 | 2兆1,761億円 | 20.4% | 鉄鋼(市内の55.4%) |
| 東広島市 | 1兆1,345億円 | 10.6% | 電子部品・デバイス・電子回路(市内の43.0%) |
| 呉市 | 9,825億円 | 9.2% | 輸送用機械(造船会社が多く立地) |
| 安芸郡府中町 | 7,106億円 | 6.6% | – |
| 尾道市 | 5,750億円 | 5.4% | 輸送用機械(造船会社が多く立地) |
数字はいずれも日本銀行広島支店の資料(出所は経済産業省「経済構造実態調査(製造業事業所調査)」)によります[1]。主な産業の欄は、資料の本文に書かれている範囲だけを載せました。
地域ごとに中心となる産業がはっきりしているため、同じ地域に、同じような工程・同じような悩みを持つ会社が集まっています。ある会社でうまくいったAIの使い方は、近くの同業の会社でも応用しやすいと、私たちは考えています。
製造業のAI活用はどこまで進んでいるか
全国の中小企業を対象にした中小機構の調査では、製造・生産部門のAI導入率は34.9%で、総務・管理部門の68.3%を下回っています[5]。現場の工程にいきなりAIを入れるより、まずは事務や記録、情報の検索など、現場を止めずに試せる業務から始めるのが現実的だと私たちは考えています。
業種別にみると、製造業の中小企業のAI導入率は16.4%で、全体(20.4%)を下回っています[6]。また、2026年版ものづくり白書によると、製造事業者のうち何らかの目的でデータを取得しているのは66.0%、活用しているのは51.4%、活用で効果を得たのは43.9%です[7]。全国のデータの詳しい内容と、事務まわりから現場へ広げる順番は、別の記事「製造業の中小企業のAI導入」でまとめています。
業種別:始めやすい業務と、先に整えておくもの
次の節から業種ごとに紹介する内容を、先に1つの表にまとめます。分け方は公的に決められたものではなく、私たちの整理です。
| 業種 | 始めやすい業務 | 先に整えておくもの |
|---|---|---|
| 自動車部品・機械・金属加工 | 検査記録や不良の傾向の整理、見積書の下書き、納期の問い合わせへの回答案 | 品番・不良の呼び方・単位の表記をそろえる。取引先の図面を入力してよいかを確かめる |
| 造船・舶用機器 | 図面・仕様書・過去の不具合記録の検索、作業報告書の下書き、ベテランへの聞き取りと手順書づくり | 図面や記録の保管場所とファイル名の付け方を決める |
| 鉄鋼・素材 | 日報・点検記録の要約と検索、保全の優先順位を考える材料づくり | 紙の日報・点検記録を表に入力し、設備の呼び方をそろえる |
| 酒造・食品 | 商品説明の多言語化、ECサイトやSNSの文章づくり、在庫・出荷・問い合わせの整理 | 商品名・原材料・表示に関わる情報の正しい元データを1か所にまとめる |
どの業種でも、入力してよい情報・いけない情報(取引先から預かった図面、取引条件、個人情報)を先に決めておくことをおすすめします。決め方は、別の記事「生成AIの社内ルールの作り方」で紹介しています。
自動車部品・機械・金属加工:品質記録と見積の手間を減らす
- 検査記録や不良の傾向をまとめ、原因の当たりをつける
- 過去の実績をもとに、見積書の作成を補助する
- 受発注や納期の問い合わせへの一次対応を効率化する
造船・舶用機器:図面と技能を「探せる」状態にする
- 図面・仕様書・過去の不具合記録をAIで検索できるようにする(社内RAG)
- 溶接や検査などの作業記録・報告書のたたき台を自動で作成する
- ベテランのノウハウを聞き取り、手順書として残す
ベテランの技能を残す進め方は、別の記事「技能継承の進め方」で、公的なデータとあわせて紹介しています。
県の事業では、福山市の企業を実証先とする「舶用機器の自律航行に用いるAI認識技術等の知能化」も採択されています[3]。
鉄鋼・素材:設備と記録のデータを活かす
- 日報や点検記録を電子化し、AIで要約・検索できるようにする
- 設備の点検履歴から、保全の優先順位を検討する材料をつくる
- 安全・品質の手順書を、現場で探しやすい形に整える
酒造・食品:伝える力と販路を広げる
- 商品説明や蔵の紹介文を、海外向けに多言語化する
- ECサイトやSNSの投稿文づくりを効率化する
- 在庫・出荷・問い合わせの管理を一元化する
広島県内の実証事例と支援制度
令和8年度のひろしまAIサンドボックスでは、県内の企業などを実証先とする17件が採択されました[3]。テーマの例は次のとおりです。
- 舶用機器の自律航行に用いるAI認識技術等の知能化(実証先:福山市の企業)[3]
- 製造業向け社内教育プラットフォームの開発(実証先:広島市の企業)[3]
- 業務品質チェッカーAI(実証先:広島市の企業)[3]
- AIを活用した公共事業の施工計画書作成工数の改善(実証先:三次市の企業)[3]
採択されたテーマには、船に載せる機器のような製品そのものに組み込むAIだけでなく、製造業向けの社内教育や業務の品質確認といった、人と書類の仕事を対象にしたものも含まれています[3]。
また、広島県DX推進コミュニティでは、県内企業向けのDX支援制度や事例、研修・イベントがまとめて紹介されています[4]。
「どの業務にAIを使えるか分からない」という段階では、国が全国に設置した無料の経営相談所「よろず支援拠点」が使えます。令和8年度から各拠点にAIアドバイザーが配置され、AIを活用できる業務の整理などを支援しています[8]。補助金の種類と締切は、別の記事「中小企業のAI導入に使える補助金・公的支援まとめ」で整理しています。
現場を止めずに進めるポイント
- まずは1つの業務・1つのチームに絞って試す
- 現場の担当者と一緒に、使い方とルールを決める
- 1〜2週間単位で使ってみて、効果が見えたものから広げる
いずれも公的に決められた手順ではなく、私たちのおすすめです。最初に、事務所と現場の両方について「誰が・何を・どのくらいの時間でやっているか」を一覧にしておくと、試す業務を選びやすくなります。
まとめ
広島のものづくりの強みは、現場に蓄積された技術と経験です。AIはそれを置き換えるものではなく、探しやすく、伝えやすく、次の世代へ残しやすくするための道具だと私たちは考えています。
よくある質問
- Q.広島県で製造業が盛んな市はどこですか?
- A.日本銀行広島支店の資料によると、製造品出荷額等(2022年)は広島市が3兆906億円(県内シェア28.9%)、福山市が2兆1,761億円(20.4%)、東広島市が1兆1,345億円(10.6%)、呉市が9,825億円(9.2%)の順で、広島市と福山市の2市で県内全体の5割弱を占めます[1]。広島市は輸送用機械、福山市は鉄鋼、東広島市は電子部品・デバイス・電子回路のウエイトが高いとされています[1]。
- Q.広島の中小の製造業は、どの業務からAIを始めるのがよいですか?
- A.見積書や報告書の下書き、検査記録や日報の整理、図面や過去の記録の検索など、現場の設備を止めずに試せる業務から始めることをおすすめします(私たちの考えです)。全国の調査でも、中小企業の製造・生産部門のAI導入率は34.9%で、総務・管理部門(68.3%)より低く[5]、事務や記録の仕事から使い始める会社が多いことがうかがえます。
- Q.広島県の主な製造業は何ですか?
- A.日本銀行広島支店の資料によると、製造品出荷額等(2022年)では自動車や造船を中心とする輸送用機械のウエイトが最も高く、鉄鋼、はん用・生産用・業務用機械が続きます[1]。
あわせて読みたい
参考・出典
- [1]日本銀行広島支店「広島県経済の特徴(2025年6月5日)」
- [2]一般社団法人東広島市観光協会「酒蔵通りの町並み」
- [3]広島県「令和8年度ひろしまAIサンドボックス事業補助金の採択について」
- [4]広島県DX推進コミュニティ「広島県DX推進コミュニティ(公式ホームページ)」
- [5]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)調査結果のポイント」
- [6]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)報告書(図45 業種別の導入状況)」
- [7]経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書 第1部第4章第3節「革新的なAI・デジタル技術を活用した製造業の多角化」(PDF)」
- [8]よろず支援拠点全国本部(中小企業基盤整備機構)「よろず支援拠点・生産性向上支援センターとは」
制度・数値は2026.10.06時点で各公式情報を確認したものです。補助金・助成金などは公募回ごとに内容が変わるため、申請の前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

Author
中胡 翔太郎株式会社Enbito 代表取締役
広島県出身。大手日系事業会社で生成AIを実際の業務に組み込み、大手外資系コンサルティングファームで企業の業務改革を支援。個人事業として30社以上の企業・事業者の立ち上げと成長に伴走。現在は株式会社Enbitoの代表として、地方の中小企業のAI活用支援・業務改善に取り組んでいます。
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