小規模事業者のAI活用|従業員20人以下の会社が最初にやること・始めやすい業務・無料の相談先【中小機構の調査データ】
AIの記事は従業員が数十人いる会社を想定したものが多く、社長と数人で回している会社には当てはまりにくいところがあります。小規模事業者の数字を公的な調査から取り出し、社長1人の棚卸しから始める順番を整理しました。
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この記事の要点
- 中小企業基本法が「小規模企業者」とする従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の会社では[2]、AIを進める専任の担当者を置けないのが普通です。中小機構の調査(回答1,668社。従業員30人以下が81.5%)では、小規模企業がAIで得た効果は「業務効率化/作業時間の短縮」79.4%が最多で、「付加価値創出」は29.0%と中規模企業(17.9%)を約11ポイント上回りました[1]。
- 一方、AI・ITともに「導入予定はない」と答えた企業の93.1%は従業員30人以下で、代表者の約63%が60代以上、42.8%が1985年以前の設立です[1]。手作業がほとんどの企業のAI導入率は26.7%で、大部分がIT化されている企業(56.8%)より約30ポイント低くなっています[1]。小規模事業者の多くは、AIの前に「紙と手作業をデジタルに移す」途中にいます。
- 最初にやることは、ツール選びではなく「社長(または業務が集まっている1人)の1週間の棚卸し」です。小規模な会社では1人の業務を書き出せば会社の大半が見えるので、ここで「毎週・30分以上・同じ形」の業務を1つ選び、まずその人が1か月使って効果を測る順番をおすすめします(私たちの考えです)。
- 無料で相談できる先があります。商工会は小規模事業者支援法にもとづく公的な支援機関で、経営指導員による無料相談と巡回相談が基本です[6]。国のよろず支援拠点には令和8年度から各拠点にAIアドバイザーが配置されています[7]。
ガイドこのテーマの全体像は中小企業のAI導入ガイド
「AIを使ってみたいが、うちは社長と数人の会社で、担当を置く余裕はない」「中小企業向けの記事を読んでも、部署や担当者がいる前提で書かれていて、うちには当てはまらない」。地方の小さな会社の経営者の方から、こうした声をよく聞きます。
この記事は、中小企業基本法が「小規模企業者」と定める、常時使用する従業員が20人以下(商業またはサービス業を主な事業とする場合は5人以下)の会社[2]と、一人で事業をしている方を対象に書きました。中小企業基盤整備機構(中小機構)の実態調査は回答企業の81.5%が従業員30人以下で[1]、小規模企業と中規模企業を分けた集計もあります。この調査と2026年版小規模企業白書、令和8年版情報通信白書の数字をもとに、小規模事業者がAIで得をしやすい理由とつまずきやすい理由、最初にやること、始めやすい業務、4週間の進め方、入力してはいけない情報、無料の相談先を順に説明します。数字と制度は2026年10月9日に公式の資料で確認したものだけを載せ、私たちの考えやおすすめはそうと分かるように書いています。
AI導入の全体像(何から始めるか・費用・補助金・社内ルール・相談先)は「中小企業のAI導入ガイド」の記事にまとめています。この記事は、その中の「人も時間も限られた小規模な会社では、どう進めるか」にしぼった内容です。
データで見る:小規模事業者のAI活用はどこまで進んでいるか
中小機構が2025年11〜12月に行った「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(有効回答1,668社)は、回答企業の45.1%が小規模企業、54.9%が中規模企業で、従業員数では30人以下が81.5%、31〜50人が9.1%、51〜100人が5.9%、101人以上が3.4%です[1]。中小企業向けの調査の中でも、小さな会社の実態が強く反映された調査だといえます。
この調査でAIを導入している企業は20.4%(全社的に導入 3.6%、一部の業務で導入 16.8%)、「導入を予定・検討中」が18.6%、「導入予定はない」が61.0%でした[1]。導入している企業が使っているAIは「生成AI」が82.6%で最も多く、部門別では総務・管理部門(68.3%)で活用が進んでいます[1]。
導入の目的と効果を、企業規模別に見たのが次の表です。
| 項目 | 小規模企業の導入目的(n=132) | 小規模企業の導入効果(n=131) | 中規模企業の導入効果(n=196) |
|---|---|---|---|
| 業務効率化/作業時間の短縮 | 84.8% | 79.4% | 85.7% |
| 品質向上 | 35.6% | 34.4% | 28.1% |
| 人手不足対応 | 28.8% | 30.5% | 36.2% |
| 付加価値創出 | 27.3% | 29.0% | 17.9% |
| 売上拡大・顧客獲得 | 24.2% | 16.8% | 17.9% |
| エラー・ミスの軽減 | 20.5% | 19.8% | 22.4% |
| コスト削減 | 10.6% | 10.7% | 14.8% |
出典:中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」報告書 表3・表5(複数回答)[1]。
小規模企業でも、効果の中心は「業務効率化/作業時間の短縮」です。注目したいのは「付加価値創出」で、小規模企業の29.0%が効果を挙げ、中規模企業(17.9%)を約11ポイント上回っています[1]。報告書は、AI全体でも「付加価値創出」の効果(22.3%)が従来のIT(7.4%)を上回ったとしています[1]。小さな会社では、社長や担当者が自分でAIを使って提案書や商品説明の質を上げるといった使い方が、時間の短縮と同じくらい効いているのではないか、と私たちは読んでいます(調査が理由までは示していないため、私たちの推測です)。
一方で、「進めていない側」の数字も、小規模事業者に集中しています。IT・AIともに「導入予定はない」と答えた企業を見ると、93.1%が従業員30人以下で、約36%は売上高3,000万円以下、42.8%が1985年以前の設立、代表者の約63%が60代以上でした[1]。AIの「導入の必要性を感じない」と答えた企業(254社)も、93.7%が従業員30人以下で、6割以上が代表者60代以上です[1]。報告書は、長年の実績で現行の業務プロセスが確立しており、あえてデジタル技術を導入しなくても事業が完結していることが、活用への動機を抑えている可能性を指摘しています[1]。
設立年でも差があります。2020年以降に設立した企業のAI導入率は36.2%、2019年設立は36.3%ですが、1985年以前の設立は16.5%、1986〜1995年は15.7%です[1]。そして、業務全体に占める手作業の比率が高いほど導入率は低く、「ほとんどが手作業」の企業は26.7%、「大部分がIT化されている」企業は56.8%と、約30ポイントの差がつきました[1]。
AIの前に「デジタルの土台」がある会社と、ない会社
小規模事業者の多くが、まだデジタル化の途中にいることは、白書の数字にも出ています。2026年版小規模企業白書は、デジタル化の取組を4つの段階に分けた調査で、「段階2」と回答した事業者が約6割を占め、デジタル化が図られていない「段階1」の事業者も一定数いるとしています[3]。この4段階は、2022年版中小企業白書が使った分類で、段階1は「紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態」、段階2は「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態」(連絡に社内メールを使う、会計処理・給与計算・売上日報にパソコンを使うなど)、段階3は「デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態」、段階4は「デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態」です[4]。
つまり、小規模事業者の約6割は「紙からデジタルへ移している途中」です。この段階の会社がAIを入れても、AIに渡す材料(注文の記録、見積もりの履歴、作業の記録)が紙や頭の中にあるため、使える場面が限られます。手作業の比率が高いほど導入率が低いという調査結果[1]は、この順番の問題を映していると私たちは考えています。
白書は同時に、中小企業の従業者一人当たりの情報処理・通信費が近年増えており、その内訳では「クラウドサービス使用料」が増えていることから、資産計上されないクラウドサービスの活用が中小企業で進んでいると示唆しています[3]。月額のクラウドサービスでメール・会計・勤怠・ファイル共有をそろえることは、AIの準備そのものです。段階1〜2の会社は「AIを入れる前に、記録がデジタルで残る道具を1つ入れる」ところから始めるのが近道だと私たちは考えています。
小規模事業者がAIで得をしやすい理由と、つまずきやすい理由
調査の数字を、小さな会社の目線で「得をしやすい点」と「つまずきやすい点」に分けました(整理は私たちの考えです。数字は出典のとおりです)。
| 小規模事業者の実情 | AI活用への影響(私たちの考え) | |
|---|---|---|
| 得をしやすい点 | 決める人と使う人が同じ(社長が決めて社長が使う) | 会議も稟議も要らず、今日から試せる。社長が使えば、それがそのまま「全社導入」になる |
| 小規模企業の29.0%がAIで「付加価値創出」の効果を挙げ、中規模企業より約11ポイント高い[1] | 人数が少ないほど、1人の提案や文章の質が会社の見え方を左右する。AIで質を上げる効果が出やすい | |
| 導入しているAIは生成AIが82.6%、総務・管理部門で68.3%[1] | 専用システムを作らなくても、月額の生成AIと表計算ソフトで始められる | |
| つまずきやすい点 | AI・ITを進める専任の担当者がいる企業は3.0%、85.9%は経営者や現場が個別に推進[1] | 社長が忙しくなると止まる。「試す期間」と「ふり返る日」を先に決めておく必要がある |
| 阻害要因は「高コスト」46.9%、「社内のAIノウハウ不足」42.0%、「社内のAI人材不足」38.8%[1] | 有料プランの判断は社長の時間の値段で決める。ノウハウは無料の相談先で補う | |
| 「ほとんどが手作業」の企業の導入率は26.7%[1]。小規模事業者の約6割はデジタル化の「段階2」[3] | AIに渡す材料がない。記録がデジタルで残る道具を先に1つ入れる | |
| 人の判断が必要な業務(営業提案、顧客折衝など)は効率化が難しいとする企業が7割近く[1] | 小さな会社ほど社長の仕事は判断と対人が多い。AIに任せる範囲は「下書きと整理」に限る |
最初にやること:社長(業務が集まっている1人)の1週間を棚卸しする
AI導入の記事の多くは「業務の棚卸しから始める」と説きますが、小規模事業者には小規模事業者なりの棚卸しのやり方があります。全部門を調べる必要はありません。社長か、業務がいちばん集まっている1人の「1週間」を書き出せば、会社の業務の大半が見えるからです。私たちは次の表を1週間つけることをおすすめしています。
| 列 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 業務 | 何をしたか(1行で) | 見積書を作って送った |
| 頻度 | 毎日/毎週/毎月/不定期 | 毎週3件 |
| かかった時間 | 1回あたりの分 | 40分 |
| 相手 | お客様/取引先/社内/役所 | お客様 |
| 使った道具 | 紙/表計算/メール/会計ソフト/頭の中 | 過去の見積もりを探して表計算で作成 |
| 形は同じか | 毎回ほぼ同じ形か、毎回違うか | 項目は同じ。数量と単価が違う |
| 判断の重さ | 間違えたときの影響(小/中/大) | 中(金額を間違えると信用に関わる) |
1週間分がそろったら、「毎週以上」「1回30分以上」「形がほぼ同じ」「判断の重さが小〜中」の4つに当てはまる業務に印を付けます。これがAIで最初に試す候補です。候補が3つ以上あれば、かかった時間の合計が最も大きいものを1つ選びます。「相手がお客様で判断が大きい」業務(値引きの判断、苦情対応など)は、人の判断が必要な業務としてAIの効率化が難しいと答えた企業が7割近い[1]ことからも、最初の候補から外すのがおすすめです。
棚卸しの書き方は「業務棚卸しのやり方」の記事で詳しく説明しています。小規模事業者の場合は、その記事の台帳を全部埋める必要はなく、この7列で足ります(私たちの考えです)。
小規模事業者が始めやすい業務と、人が確かめること
調査では、導入しているAIは生成AIが82.6%で、総務・管理部門での活用が68.3%と最も進んでいます[1]。情報通信白書の企業向け調査でも、日本では「議事録・メール作成補助」でのAI活用を答えた割合が約7割と最も高く、導入効果を実感した割合も約7割と他の業務類型より目立って高くなっています[5]。小さな会社で、この傾向に沿って始めやすい業務を表にしました(業務の選び方と注意は私たちの考えです)。
| 業務 | AIに任せること | 人(社長・担当者)が確かめること | 小規模ならではの注意 |
|---|---|---|---|
| お客様へのメール・案内文の下書き | 要点を箇条書きで渡して文章にする。敬語や構成を整える | 事実(日付・金額・品名)と、相手との関係に合う言い回し | お客様の名前や住所は入れずに下書きし、送る前に自分で入れる |
| 見積書・提案書の説明文 | 過去の説明文を型にして、今回の条件に合わせた文を作る | 数量・単価・納期は必ず自分で入れる。AIに計算させない | 金額の判断は人。AIは文章だけ |
| 打ち合わせの記録 | 録音の文字起こしを要約し、決まったこと・宿題を分ける | 決定事項と担当者の名前 | 録音は相手の了解を得る。相手の個人情報は要約から外す |
| 手順書・引き継ぎメモ | 口頭で説明した内容を手順の形に整える | 順番の抜け、現場でしか分からない注意 | 社長の頭の中を文字にする入口として使える。属人化の解消にもつながる |
| SNS・ホームページの文章 | 商品やサービスの特徴から案内文の案を複数作る | 事実と違う表現、誇張、他社の名前 | 「お客様の声」などをAIに作らせない。事実でないことは載せない |
| 日報・売上の集計の整理 | 表計算のデータを渡して集計の式や見方を提案させる | 元の数字が正しいか | 個人名が入った表は、名前の列を消してから渡す |
どの業務でも、AIの役割は「下書きと整理」までにとどめ、送る・決める・入れるは人が行う、という線を引いておくことをおすすめします。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの応答結果には不正確な内容が含まれることがあるとして注意を呼びかけています[8]。「確認の時間を含めても、今より短くなるか」で効果を見るのが、小さな会社では特に大切です。業務の向き・不向きの考え方は「中小企業の業務改善にAIを使うには」の記事で詳しく整理しています。
4週間の進め方:1人・1業務・1か月
小規模事業者には、AI導入の「プロジェクト」は要りません。社長か担当者1人が、1つの業務で1か月使い、効果を数字で見てから次に進む。それだけで十分です。私たちがおすすめする4週間の進め方を表にしました。
| 週 | やること | 終わったときの状態 |
|---|---|---|
| 第1週:棚卸し | 上の7列の表を1週間つける。候補を1つ選ぶ。入力しない情報の決まり(次の章)を紙1枚に書く | 試す業務が1つ決まり、今かかっている時間(例:週3件×40分=120分)が分かっている |
| 第2週:試す | 選んだ業務で、生成AIに下書きや整理を頼む。うまくいった頼み方(指示文)を1つずつメモに残す | 指示文のメモが3〜5個ある。失敗した例も残っている |
| 第3週:測る | 毎回、AIを使った時間と確認の時間を記録する。第1週の時間と比べる | 「確認を含めて週120分→60分」のように、数字で差が見える |
| 第4週:決める | 続けるか、やめるか、別の業務に広げるかを決める。続けるなら有料プランの要否を、社長の時間の値段で判断する | 次の1か月の業務が1つ決まる。指示文のメモが社内の最初の「手順書」になる |
第3週の「測る」は、省きがちですが省かないでください。中小機構の調査では、AIを導入した企業の運用の課題として「ランニングコストが高い」が44.0%、「運用担当者の負荷が重い」が29.1%、「従業員による活用が進まない」が28.9%挙がっています[1]。数字で効果が見えていれば、月額の費用を続けるかどうかを迷わずに決められますし、社長以外の人に広げるときの説得材料にもなります。
費用については、相場を示す公的な統計がないため、この記事では金額を書きません。費用の内訳と、棚卸しから予算の上限を出す考え方は「中小企業のAI導入の費用はいくら?」の記事で説明しています。補助金は、最初の1か月を終えて「続ける」と決めたあとに、使える制度があるかを確かめる順番をおすすめします(私たちの考えです)。
入力してはいけない情報:社長1人でも決めておく3つ
情報通信白書の企業向け調査では、生成AIの活用方針を定めている(「積極的に活用する」と「領域を限定して利用する」の合計)中小企業は58.1%で、大企業の74.0%より低く、中小企業では「方針を明確に定めていない」が31.5%でした[5]。小規模事業者では、就業規則のような形のルールを作るのは現実的ではありません。それでも、次の3つだけは紙1枚に書いて、使う人全員(社長1人なら自分)で守ることをおすすめします。
- 1. お客様・従業員・取引先の個人情報(氏名、住所、電話番号、口座など)は入力しない。入れる必要があるときは、名前を「A社」「Bさん」に置き換えてから入れる。
- 2. 取引先から預かった図面・仕様・価格など、外に出さない約束の情報は入力しない。自社の原価や未発表の計画も同じ。
- 3. AIが出した文章・数字は、送る前・決める前に必ず人が確かめる。金額と日付はAIに計算させず、自分で入れる。
1つ目は、個人情報保護委員会の注意喚起に対応しています。同委員会は、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む内容を入力する場合、その個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること、また、入力した個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるため、サービスを提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認することを求めています[8]。確認できない場合は入力しない、または名前を伏せてから使うのが安全です。
従業員が増えてきたら、10項目の社内ルールに広げます。作り方は「生成AIの社内ルールの作り方」の記事で、チェック表つきで説明しています。
無料で相談できる先:商工会・商工会議所とよろず支援拠点
小規模事業者にとって最も身近な相談先は、商工会・商工会議所です。全国商工会連合会は、商工会を商工会法にもとづき設立された特別認可法人であり、「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律(小規模事業者支援法)」にもとづく公的な支援機関と位置づけています。経営指導員が事業の状況を把握しながら段階に応じた支援を行い、経営相談のほか記帳支援、資金繰りの相談、各種補助金への対応などに応じ、無料相談が基本で、事業所を訪問する巡回相談にも対応するとしています[6]。支援サービスの提供状況は商工会によって異なるため、詳細は近くの商工会に問い合わせるよう案内されています[6]。AIに詳しい指導員がいるとは限りませんが、「うちの規模でいま投資してよいか」「使える制度はあるか」の相談には、会社の数字を知っている相手として向いています(私たちの考えです)。
AIそのものの相談は、国が全国に設置した無料の経営相談所「よろず支援拠点」が使えます。令和8年度に各拠点に配置されたAIアドバイザーが、AIを活用できる業務の整理、導入に向けた社内文書・データの準備、活用できるサービスの検討などを支援しています。「どの業務にAIを使えるのか分からない」という段階から相談できると案内されています[7]。
相談先を使う意味は、数字にも出ています。中小機構の調査で、中小企業がAI・ITの導入に必要とする公的支援は「導入費用の助成」77.9%に次いで、「導入事例や活用事例などの情報提供」70.5%、「従業員向けの教育・研修」67.7%でした[1]。費用だけでなく、情報と経験の不足を補う支援が求められています。小規模事業者は社内に聞ける人がいないのが前提なので、無料の相談先を1つ持っておくことが、AI活用の「人材」の代わりになります。国の窓口の比較と、相談の前に用意するメモは「中小企業のAI導入はどこに相談する?」の記事にまとめています。
小規模事業者がつまずきやすい5つのパターン
| つまずき | 起きること | 防ぎ方(私たちの考え) |
|---|---|---|
| 社長が忙しくなって止まる | 試す期間が延び、効果が分からないまま費用だけ続く | 第4週の「決める日」をカレンダーに入れる。1か月で結論を出す |
| 紙の記録のままAIを入れる | AIに渡す材料がなく、使う場面が見つからない | 先にクラウドの会計・メール・ファイル共有のどれか1つで記録を残す |
| お客様対応から始める | 判断が必要な業務で、確認の手間が増える | 最初は社内向けの文章・記録・整理から。対人の判断は人が行う |
| 社長だけが使えて、ほかの人に伝わらない | 社長の属人化がもう1つ増える | うまくいった指示文をメモに残し、1人に試してもらう |
| 向こうから来た営業で決める | 業務に合わないツールを契約し、使われなくなる | 商工会・よろず支援拠点など、売る立場にない相手に先に相談する |
うまくいかない原因と立て直し方は「中小企業のAI導入が失敗する原因と対策」の記事でも整理しています。
始める前のチェック表
| 確かめること | できていれば |
|---|---|
| 棚卸し | 社長か業務が集まっている1人の1週間を、7列の表に書いた |
| 業務の選定 | 「毎週以上・30分以上・形が同じ・判断が小〜中」の業務を1つ選んだ |
| 今の時間 | その業務に今かかっている時間(週あたり)を数字にした |
| デジタルの土台 | その業務の記録(過去の見積もり、注文、作業記録)がデジタルで残っている。残っていなければ、先に残す道具を決めた |
| 入力の決まり | 入力しない情報3つを紙1枚に書いた |
| 測り方 | AIを使った時間と確認の時間を、毎回記録する欄を用意した |
| 決める日 | 4週目に続けるかやめるかを決める日を入れた |
| 相談先 | 商工会・商工会議所、またはよろず支援拠点のうち、相談できる先を1つ確かめた |
まとめ:小さい会社ほど、社長の1週間から始められる
小規模企業がAIで得た効果は「業務効率化/作業時間の短縮」79.4%が中心で、「付加価値創出」は29.0%と中規模企業を約11ポイント上回りました[1]。一方で、導入予定がない企業の93.1%は従業員30人以下で、手作業がほとんどの企業の導入率は26.7%にとどまります[1]。小規模事業者の約6割はデジタル化の「段階2」にいて[3]、AIの前に記録をデジタルに移す途中です。
だからこそ、順番が大事です。社長の1週間を棚卸しし、記録がデジタルで残る業務を1つ選び、1人で1か月使って、確認を含めた時間で効果を測る。入力しない情報3つを決め、分からないことは商工会やよろず支援拠点に無料で聞く。人数が少ない会社ほど、この順番は速く回ります。決める人と使う人が同じだからです。
私たちEnbitoは、業務の棚卸しから始める業務改善とAI活用の支援を行っている民間の会社です。縁SCANは、社員への聞き取りをもとに業務を見える化するための道具で、社長1人の棚卸しから始めたい会社にも使えるよう設計しています。小さな会社がAIで損をしないための順番として、この記事の内容がお役に立てば幸いです。
よくある質問
- Q.従業員が5人以下の会社でも、AIを使う意味はありますか?
- A.あります。中小機構の調査では、小規模企業がAIで得た効果は「業務効率化/作業時間の短縮」が79.4%で最も多く、「付加価値創出」も29.0%と中規模企業(17.9%)を上回っています[1]。人数が少ない会社ほど、社長や担当者1人の時間と文章の質が会社全体に影響するため、1人がAIを使うだけで効果が出やすいと私たちは考えています。導入しているAIは生成AIが82.6%で[1]、専用のシステムを作らなくても月額のサービスで始められます。
- Q.小規模事業者がAIを始めるとき、最初に何をすればよいですか?
- A.ツールを選ぶ前に、社長か業務がいちばん集まっている1人の1週間を棚卸しすることをおすすめします(私たちの考えです)。「毎週以上・1回30分以上・形がほぼ同じ・判断が小〜中」の業務を1つ選び、今かかっている時間を数字にしてから、1人で1か月使って効果を測ります。中小機構の調査では、手作業がほとんどの企業のAI導入率は26.7%と、大部分がIT化されている企業(56.8%)より約30ポイント低いため[1]、選んだ業務の記録が紙にしかない場合は、先に記録をデジタルで残す道具を1つ入れるほうが近道です。
- Q.担当者を置けない会社は、どうやって進めればよいですか?
- A.専任の担当者がいない中小企業は普通です。中小機構の調査では、AI・ITの導入を進める専任の担当者がいる企業は3.0%で、85.9%は経営者や現場の従業員が個別に進めています[1]。小規模事業者では、社長自身が「1人・1業務・1か月」で試し、4週目に続けるかやめるかを決める日をあらかじめ入れておく進め方をおすすめします。うまくいった指示文をメモに残しておくと、それが社内の最初の手順書になり、ほかの人に広げるときに使えます。
- Q.社長1人で使う場合でも、社内ルールは必要ですか?
- A.就業規則のような形のルールは要りませんが、「入力しない情報」だけは紙1枚に決めておくことをおすすめします。個人情報保護委員会は、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む内容を入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認し、入力した個人データが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるため、提供事業者が機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています[8]。お客様・従業員・取引先の個人情報と、外に出さない約束の情報は入力しない、AIの出した文章と数字は人が確かめる、の3つが最低限です。
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参考・出典
- [1]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)報告書(PDF。図1・図4 回答企業の属性、図13 導入状況、図19 導入済みサービス、図30・図32・図33・図37、図46〜48・図52〜58 導入予定なし・必要性を感じない企業の属性、図78 設立年別、図79 手作業比率別、表3・表5 企業属性別の導入目的・導入効果)」
- [2]e-Gov法令検索(デジタル庁)「中小企業基本法(昭和38年法律第154号)第2条第5項(小規模企業者の定義)」
- [3]中小企業庁「2026年版 小規模企業白書(HTML版)第1部第1章第5節 デジタル化・DX(第1-1-31図 デジタル化の取組段階、第1-1-33図・第1-1-34図 情報処理・通信費とその内訳)」
- [4]中小企業庁「2022年版 中小企業白書(HTML版)第2部第3章第2節(デジタル化の取組段階1〜4の定義)」
- [5]総務省「令和8年版 情報通信白書 第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(PDF。図表Ⅰ-2-1-2 生成AI活用方針の策定状況(企業規模別)、図表Ⅰ-2-1-7 業務類型別の活用状況)」
- [6]全国商工会連合会「商工会とは(商工会法・小規模事業者支援法にもとづく支援、経営指導員による相談)」
- [7]よろず支援拠点全国本部(中小企業基盤整備機構)「よろず支援拠点・生産性向上支援センターとは」
- [8]個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)」
制度・数値は2026.10.09時点で各公式情報を確認したものです。補助金・助成金などは公募回ごとに内容が変わるため、申請の前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

Author
中胡 翔太郎株式会社Enbito 代表取締役
広島県出身。大手日系事業会社で生成AIを実際の業務に組み込み、大手外資系コンサルティングファームで企業の業務改革を支援。個人事業として30社以上の企業・事業者の立ち上げと成長に伴走。現在は株式会社Enbitoの代表として、地方の中小企業のAI活用支援・業務改善に取り組んでいます。
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