人手不足をAIで解消するには?中小企業の業務改善の具体例と使える公的支援
採用だけに頼らず、一人ひとりの時間を生み出す。人手不足の中小企業がAIで効率化しやすい業務の具体例と、無料で使える公的な支援を紹介します。
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この記事の要点
- 中小機構の調査(2025年1月)では、人手不足を「深刻」と捉える中小企業が約4分の1、将来問題になると考える企業も含めると9割を超えました[4]。
- AIを導入した中小企業が感じた効果は「業務効率化/作業時間の短縮」が83.2%で最多、「人手不足対応」も33.9%でした[1]。
- 効率化しやすいのは、毎日くり返し発生し、手順が決まっていて、文章や数字を扱う業務です。AIで作業を減らし、生まれた時間を人にしかできない仕事に回すのが現実的な使い方だと私たちは考えています。
- 国はよろず支援拠点内に、無料で何度でも現場を訪問する「生産性向上支援センター」を設けています。令和8年度からはAIアドバイザーも配置されています[2]。
ガイドこのテーマの全体像は中小企業のAI導入ガイド
「募集をかけても人が集まらない」「ベテランの退職で業務が回らない」。人手不足は、多くの中小企業に共通する経営課題です。国も、人手不足などに直面する中小企業の生産性向上を支援する窓口を設けています[2]。
採用を強化するだけでなく、今いる人の時間を生み出すことも有効な打ち手です。この記事では、データで現状を確認したうえで、AIで効率化しやすい業務の具体例、AIだけでは解決しにくいこと、進め方、使える公的な支援を整理します。
データで見る:中小企業の人手不足
中小機構が人手不足に関心の高い全国の中小企業・小規模企業者1,547者に行った調査(2025年1月実施)では、回答者の約4分の1が人手不足を深刻と捉え、将来的に問題になると考えている事業者も含めると9割を超えました[4]。
人手不足に関わる課題は「人材確保・採用」が6割以上、「人材育成」が約5割でした[4]。同調査は、賃上げだけでは人材の確保・採用が難しい状況にあり、働きやすさや働きがいのある職場づくりも求められるとまとめています[4]。
人の出入りも少なくありません。厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、常用労働者の入職率は14.7%、離職率は13.7%でした[8]。およそ7人に1人が1年のあいだに辞めている計算になるため、人手不足の対策は「人を採る」だけでなく、「いる人が辞めても仕事が止まらない状態」を作ることも含むと私たちは考えています。
AI導入企業が感じている効果
中小機構の別の調査(2025年11〜12月実施)では、AIを導入した中小企業が挙げた効果は「業務効率化/作業時間の短縮」が83.2%で突出し、「人手不足対応」33.9%、「品質向上」30.6%が続きました[1]。導入の目的でも「人手不足対応」は31.7%で、「業務効率化/作業時間の短縮」(87.0%)、「品質向上」(32.3%)に次ぐ3番目でした[1]。
業務分野別のAI導入率は、総務・管理部門(68.3%)、営業・販売・サービス部門(60.3%)、経営・企画部門(58.5%)、製造・生産部門(34.9%)の順でした[1]。まずは事務・顧客対応のような、文章や数字を扱う仕事から使われていることが分かります。
AIで効率化しやすい業務の特徴
- 毎日・毎週くり返し発生する
- 手順やルールがある程度決まっている
- 文章や数字を扱う作業が中心
AIでも効率化が難しい業務
反対に、AIを入れても楽にならない業務もあります。中小機構の報告書では、AIの導入後も効率化が難しいと感じる業務は「人の判断が必要な業務」が67.1%で最も多く、「社内調整・意思決定など属人的な業務」33.3%、「経営判断や戦略立案に関する業務」31.3%が続きました[9]。
人手不足の解消を目的にするなら、判断や調整が中心の業務ではなく、くり返しの多い定型の作業からAIに任せ、浮いた時間を判断や調整に回す順番が現実的だと私たちは考えています。業務の選び方と評価表は「中小企業の業務改善にAIを使うには」の記事で詳しく扱っています。
具体例1:問い合わせ対応
よくある質問への回答案をAIが作成し、担当者は確認して送るだけにします。対応時間の短縮と、回答品質のばらつき防止につながります。
具体例2:日報・議事録・報告書の作成
会議の録音やメモから議事録のたたき台をつくる、箇条書きから報告書を整えるといった作業は、生成AIや音声認識AIが得意とする分野です。調査でも、導入済み企業で使われているAIは生成AI(82.6%)、音声認識・音声対話AI(29.8%)が上位でした[1]。
具体例3:データ入力・転記・集計
紙やPDFの内容を読み取って表に整理する、複数のExcelを集計するといった作業も、AIや自動化ツールで短縮できる可能性があります。
具体例4:社内の「聞けば分かる」を減らす
マニュアルや過去の資料をAIが参照して答える仕組み(社内RAG)をつくれば、ベテランに質問が集中する状態を減らせます。
具体例5:製造現場の検査・設備の見守り
中小機構の調査では、画像認識AI(外観検査、不良品検出など)を使っている導入企業は11.2%、異常検知AI(設備保全、予防保守など)は4.3%でした[1]。事務の仕事に比べると導入はまだ少ないものの、熟練者の目に頼っている検査や見回りの負担を減らす使い方です。
業務別:AIで減らせる作業と、人に残る仕事(私たちの整理)
| 業務 | AIで減らせる作業 | 人に残る仕事 |
|---|---|---|
| 問い合わせ対応 | よくある質問への回答案づくり、問い合わせの分類 | 回答内容の確認、例外やクレームへの対応 |
| 議事録・日報・報告書 | 録音やメモからのたたき台づくり、要約、体裁の統一 | 内容の確認、決定事項と次の行動の判断 |
| データ入力・集計 | 紙・PDFの読み取り、転記、集計表づくり | 数字の確認、結果をもとにした判断 |
| 社内の問い合わせ・引き継ぎ | マニュアルや過去資料からの回答、手順書の下書き | 資料の更新、AIの答えが正しいかの確認 |
| 見積・提案書 | 過去の資料をもとにした下書き、文章の整え | 価格や条件の決定、お客様との調整 |
| 検査・設備の見守り(製造) | 画像による不良の候補の検出、異常の兆しの検知[1] | 最終判定、原因の調査と対策 |
どの業務も、AIは「たたき台」や「候補」をつくる役で、確認と判断は人が担う形にすると始めやすいと私たちは考えています。
AIだけでは解決しにくい人手不足(私たちの考え)
AIで減らせるのは、主にパソコンやデータの上で完結する作業です。建設や介護、物流のように、現場で体を動かす仕事が足りない場合は、AIだけで人手不足が解消するわけではありません。その場合は、事務や連絡・記録の作業をAIで減らして現場の人が現場の仕事に集中できるようにする、ロボットや機械などの省力化設備とあわせて考える、といった組み合わせが現実的です。
また、採用や定着の課題は、賃金や働きやすさなど、AI以外の取り組みとあわせて進める必要があります[4]。AIで生まれた時間を、教育や職場の改善に回すことも一つの方法です。
導入の進め方(5つのステップ)
- 業務を書き出し、時間がかかっている業務・特定の人に依存している業務を見つける(業務の棚卸し)
- その中から、上の表のようにAIが得意な業務を1つ選ぶ
- 現場の担当者と一緒に、期間を決めて試す
- 入力してよい情報など、最低限の社内ルールを決める
- 削減できた時間を記録して効果を見える化し、ほかの業務へ広げる
ベテランの退職が近い場合は、AIを入れる前に業務の手順や判断のポイントを書き出しておくと、引き継ぎにもAIの活用にも役立ちます。手順は下の関連記事で詳しく解説しています。
ベテランの退職が近いときは、AIより先に「書き出す」
人手不足の相談で多いのが、「ベテランが辞めるので、その人の仕事をAIで代わりにできないか」というものです。私たちは、その順番は逆だと考えています。本人の頭の中にある手順や判断のコツは、書き出されていなければAIにも渡せません。
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」では、技能継承に問題があるとした事業所は44.2%で、問題点の2位は「技術・ノウハウ等の伝承に時間がかかり円滑に進まない」60.6%でした[10]。一方で、取組として「退職予定者の伝承すべき技能・ノウハウ等を文書化、データベース化、マニュアル化している」事業所は22.0%にとどまります[10]。
退職が見えている人の業務は、まず一覧と手順を書き出し、そのうえで「書き出した手順のうち、AIに下書きさせられる作業はどれか」を考える順番をおすすめします。進め方は「技能継承の進め方」「引き継ぎマニュアルをAIで作る方法」の記事にまとめています。
人手不足対策で使える公的な支援
| 支援 | 内容 | 窓口・ポイント |
|---|---|---|
| 生産性向上支援センター | 人手不足などの課題に直面する中小企業向けに、国がよろず支援拠点内に設置。生産性向上のサポーターが何度でも、無料で現場を訪問して伴走します[2] | 各都道府県のよろず支援拠点。広島県では2026年4月に開設され、生成AI活用や省人・省力化も相談できます[5] |
| よろず支援拠点のAIアドバイザー | 令和8年度に各拠点に配置。AIを活用できる業務の整理、社内文書・データの準備、使えるサービスの検討などを支援します[2] | 「どの業務にAIを使えるか分からない」段階から相談できます[2] |
| 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型) | カタログに登録された省力化製品の導入を支援[3] | 申請時に人手不足の状態にあることが要件の一つです[3] |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 現場に合わせた設備導入・システム構築などの省力化投資を支援[7] | 生産性向上支援センターの支援を受けると、採択審査で加点を受けられる予定です(2026年夏頃の公募回から)[2] |
| 業務改善助成金 | 事業場内最低賃金の引上げとあわせた、生産性向上のための設備投資等を助成[6] | 事業所を管轄する都道府県労働局[6] |
申請時期や締切などの詳しい条件は、「中小企業のAI導入に使える補助金・公的支援まとめ」で整理しています。
まとめ
AIは人を置き換えるためではなく、人にしかできない仕事に時間を使うための道具だと私たちは考えています。自社のどの業務から始めるべきか、まずは業務の棚卸しから始めてみましょう。
よくある質問
- Q.AIを導入すると、人手不足は解消できますか?
- A.AIだけで人手不足がなくなるわけではありませんが、AI導入企業の33.9%が「人手不足対応」の効果を挙げています[1]。まずは時間のかかっている定型業務から効率化し、生まれた時間を人にしかできない仕事に振り向けるのが現実的です。
- Q.人手不足の中小企業は、どの業務からAIを使えばよいですか?
- A.毎日くり返し発生し、文章や数字を扱う業務がおすすめです。中小機構の調査でも、AIの導入率は総務・管理部門(68.3%)、営業・販売・サービス部門(60.3%)が高くなっています[1]。問い合わせ対応、議事録・報告書、データ入力などから1つ選んで試してみてください。
- Q.建設や介護など、現場の人手不足にもAIは役立ちますか?
- A.現場で体を動かす仕事そのものをAIだけで代わることは難しいと私たちは考えています。一方で、日報・記録・見積・連絡などの事務作業をAIで減らせば、現場の人が現場の仕事に集中しやすくなります。機械やロボットの導入には、省力化投資補助金などの制度もあります[3][7]。
- Q.人手不足の相談は、どこにすればよいですか?
- A.国がよろず支援拠点内に設けた「生産性向上支援センター」で、無料で何度でも現場訪問を含む伴走支援を受けられます[2]。令和8年度からは各拠点にAIアドバイザーも配置されています[2]。
- Q.ベテランの退職が近いときは、AIと引き継ぎのどちらを先に進めればよいですか?
- A.私たちは、引き継ぎ(業務の一覧と手順の書き出し)を先にすることをおすすめしています。書き出されていない手順や判断のコツは、AIにも渡せないためです。能力開発基本調査では、退職予定者の技能・ノウハウを文書化・マニュアル化している事業所は22.0%にとどまります[10]。書き出したあとで、AIに下書きさせられる作業を選ぶ順番が現実的です。
あわせて読みたい
- 中小企業のAI導入に使える補助金・公的支援まとめ【2026年版】
- 業務棚卸しのやり方|業務を見える化する6つの手順
- 中小企業の業務引継ぎの進め方|仕事を止めない準備とチェック表
- 中小企業のAI導入の進め方|失敗しない5ステップ
- 中小企業のAI導入ガイド【2026年版】
- 中小企業の業務改善にAIを使うには|効果が出やすい業務・出にくい業務と、対象業務の選び方
- 技能継承の進め方|ベテラン社員の退職に備えて中小企業が今からできること
- 引き継ぎマニュアルをAIで作る方法|中小企業向けの5つの手順・聞き取りの質問・指示文の例
- 業務の属人化とは?中小企業で属人化を解消する進め方
- 中小企業のAI導入・業務改善の実装支援(AI導入・実装)
参考・出典
- [1]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)調査結果のポイント」
- [2]よろず支援拠点全国本部(中小企業基盤整備機構)「よろず支援拠点・生産性向上支援センターとは」
- [3]中小企業省力化投資補助金 公式サイト「カタログ注文型とは」
- [4]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業・小規模企業者の人手不足への取組状況に関する調査(2024年度)」
- [5]広島県よろず支援拠点「生産性向上支援センター」
- [6]厚生労働省「業務改善助成金」
- [7]中小企業省力化投資補助金 公式サイト「トップページ(一般型)」
- [8]厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況(令和8年8月31日公表。PDF)」
- [9]独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)報告書(図31 効率化が難しいと感じる業務、図32 導入後の運用課題、図34 担当部署・担当者、図43 クラウドサービスの契約額)」
- [10]厚生労働省「令和7年度「能力開発基本調査」調査結果の概要(PDF。事業所調査「技能の継承について」図61〜64)」
制度・数値は2026.10.09時点で各公式情報を確認したものです。補助金・助成金などは公募回ごとに内容が変わるため、申請の前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

Author
中胡 翔太郎株式会社Enbito 代表取締役
広島県出身。大手日系事業会社で生成AIを実際の業務に組み込み、大手外資系コンサルティングファームで企業の業務改革を支援。個人事業として30社以上の企業・事業者の立ち上げと成長に伴走。現在は株式会社Enbitoの代表として、地方の中小企業のAI活用支援・業務改善に取り組んでいます。
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